呼吸不全とは?
呼吸不全とは、「動脈血ガスPaO2,PaCO2が異常であるため生体が正常な機能を営めない状態」と定義されています。肺の換気機能が果たせていない状態を言います。この結果、低酸素血症となります。低酸素血症とはPaO2が60Torr以下の状態を言います。
低酸素血症には①換気血流比不均等、②拡散障害、③シャント(右左シャント)、④肺胞低換気の4つの機序があります。通常は①〜④が混在した状態で呼吸不全を引き起こします。高地などの環境では、⑤吸入酸素分圧の低下も低酸素血症の原因となります。高地では気圧が低くなり、大気に含まれる酸素含量が少なく、低酸素血症となります。
今回は換気血流比不均等について説明します。
換気血流比とは?
換気血流比とは、単位時間あたりの肺胞換気量と血流量の比率のことです。
換気血流比=換気量/血流量(VA/Q)で表されます。
(※ちなみにVA、Qの文字の上についている・(ドット)は単位時間あたりの量という意味です。)
換気血流比は約0.8であり、この比率が最も効率よくガス交換が行われている状態です。この状態は理想肺胞気と呼ばれます。健康な人でも肺の部位によってVA/Q比は異なります。正常な肺であっても重力の影響を受けて、換気血流比の差(生理的な換気血流比不均等)は生じます。立位で考えると肺胞は、肺尖部は重力によって肺胞が拡張し換気によって膨らむ量は少ないです。肺底部は肺尖部ほど重力の影響を受けないので、重力の影響で肺尖部よりは拡張しません。そのため肺底部は換気によって膨らむ量は大きくなります。また、立位では胸空内圧は肺尖部から肺底部へ向かうほど胸空内圧は相対的に高くなります。肺胞に対して血流は、肺尖部は重力によって血流が非常に少なく、肺底部では血流が非常に多くなります。肺胞と血流では血流の方が重力の影響を受けやすいです。
具体的にVA/Qに当てはめると、肺尖部はVAの値が小さくなり、Qは非常に小さくなります。その結果VA/Qは3以上と大きくなります。肺底部はVの値が大きくなり、Qは非常に大きくなります。その結果VA/Qは0.8を下回るほど小さくなります。
このように健康な肺であっても生理的な換気血流比不均等を認めます。
ちなみに拡散障害やシャントがなければ、PAO2=PaO2(A-aDO2=0)となるような最も効率良い理想的なガス交換が行われます。
換気血流比不均等とは?
様々な疾患によってVA/Qが肺内の部位によって高値を示したり、低値を示したりしている状態を表しています。
換気血流日不均等には病変部位でVA/Qが増加することも、VA/Qが低下することもあります。その違いについて簡単に説明します。
病変部位でVA/Qが増加する場合と低下する場合
分かりやすいように、細気管支炎と肺血栓塞栓症の具体例を挙げて説明します。病変部位でVA、Qが増加や低下をした場合でも肺全体での換気量や血流量は変わらないことに注意しましょう。
病変部位でVA/Qが低下する場合
具体的に細気管支炎などの疾患では、病変部位で換気量が減少するので、病変部位でVAが低下するので、病変部位ではVA/Qが低下します。肺全体での換気量は変わらないので正常部位では換気量が増加してVA/Qが増加します。
病変部位でVA/Qが増加する場合
肺血栓塞栓症などの疾患では、病変部位で血流量が減少するので、病変部位でQが低下するので、VA/Qは増加します。肺全体での血流量は変わらないので正常部位では血流量が増加してVA/Qが減少します。
肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)はどうなるか?
この場合は肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)の開大を認めます。しかし、換気血流比不均等のみの場合は、高濃度酸素の吸入によってPaO2の上昇を認めます。その理由は、VA/Qが小さくても肺胞にいたる気道は開通しているので、拡散障害やシャントと異なり、少しずつ時間をかけて高濃度の酸素を吸入することで肺胞の酸素濃度が上昇してくるのです。
- 参考文献
1.3学会合同呼吸療法認定士認定委員会.第26回3学会合同呼吸療法認定士「認定講習会テキスト」.令和3年8月1日.pp.52-53,73-75
2.岡庭 豊.病気が見える vol.4 呼吸器第2版.平成29年10月16日.pp.28-31