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呼吸不全とは?呼吸療法認定士が呼吸不全の基礎を分かりやすく説明!

呼吸とは?

呼吸とは外気から酸素(O2)を細胞内へ取り入れ、細胞の代謝によって生産された二酸化炭素(CO2)を排出するガス交換のことです。呼吸には、外呼吸内呼吸があります。

生命活動のために空気を吸い、その中の酸素を摂取して全身に供給しています。炭水化物や脂質、アミノ酸などの栄養素を細胞内で燃焼させて生産されたアデノシン三リン酸(APT)をエネルギーとして利用しています。

肺呼吸は外呼吸の主要器官であり、換気、ガスの肺内分布、拡散、肺血流のどの過程に障害が起こっても血流に取り込まれる酸素が不足します。これらの異常により細胞レベルでの内呼吸に障害が生じ、生体が正常な機能を営むことができない状態を呼吸不全と言います。

鼻や口から空気を吸って吐くことを呼吸と考える方が多くいると思いますが、このような単純な空気の出し入れは換気と呼ばれます。

 

外呼吸と内呼吸

外呼吸

外呼吸

 

外気から酸素を取り入れ、代謝により生じた二酸化炭素を体外に排出する機能を外呼吸と呼びます。安静時における成人の1分間あたりの酸素消費量は250mlで、200mlの二酸化炭素が外出されています。

生理学で扱われる呼吸は外呼吸を指す場合が多いです。

 

内呼吸

 

細胞における酸素と二酸化炭素の出入りを内呼吸と呼びます。エンジンが燃料を空気中の酸素で燃焼させてエネルギーを得ているのと同じ様に、生体でも効率良く栄養素を燃焼(代謝)させるために酸素は必要不可欠です。

 

呼吸不全の基礎

呼吸不全とは、「動脈血ガスPaO2,PaCO2が異常であるため生体が正常な機能を営めない状態」と定義されています。動脈血液ガス分析で、PaO2が60Torr以下(低酸素血症)を示すとき呼吸不全と断定されます。臨床経過により急性呼吸不全慢性呼吸不全に分けられます。また、呼吸不全にはPaCO2の値により、Ⅰ型呼吸不全Ⅱ型呼吸不全に分類されます。

通常の平地では、低酸素血症には①換気血流比不均等、②拡散障害、③シャント(右左シャント)、④肺胞低換気の4つの機序があります。通常は①〜④が混在した状態で呼吸不全を引き起こします。高地などの環境では、⑤吸入酸素分圧の低下も低酸素血症の原因となります。高地では気圧が低くなり、大気に含まれる酸素含量が少なく、低酸素血症となります。

呼吸不全を呈する病態は、脳卒中に伴うものや麻薬の使用による呼吸中枢の抑制、気道内分泌物の貯留、肺実質の障害、敗血症など他にも様々なものがあります。どの病態が主座となっているか理解して治療を進めることが大切です。

 

以上の内容を下記にまとめました。

病態生理学的機序 呼吸不全の分類 動脈血二酸化炭素分圧 肺胞気動脈血酸素分圧較差
換気血流比不均等  

Ⅰ型呼吸不全

 

PaCO2≦45Torr

 

A-aDO2開大

拡散障害
シャント

(右左シャント)

肺胞低換気 Ⅱ型呼吸不全 PaCO2>45Torr A-aDO2正常 or 開大

 

急性呼吸不全と慢性呼吸不全

急性呼吸不全

数時間〜1ヶ月未満で経過する呼吸不全のことを言います。症状が時間単位で変化します。

主な原因疾患としては、肺炎などの感染症、外傷、手術性の無気肺、心原性肺水腫、ARDSなどがあります。

 

慢性呼吸不全

1ヶ月以上持続している呼吸不全のことを言います。

主な原因疾患としては、COPD、間質性肺炎などがあります。感染症や心不全の合併などにより急性増悪をきたすことがあります。

 

Ⅰ型呼吸不全とⅡ型呼吸不全

Ⅰ型呼吸不全

Ⅰ型呼吸不全は、様々な機序(主に換気血流比不均等、拡散障害、シャント)によりO2の取り込みが不足し、CO2の排出は正常に保たれている状態です。

動脈血液ガス分析ではPaO2が60Torr以下(低酸素血症)、PaCO2が45Torr以下を示します。また、肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)が開大します。

呼吸不全の重症化により、Ⅰ型呼吸不全からⅡ型呼吸不全(高二酸化炭素血症も伴う)に移行することがあります。

 

Ⅱ型呼吸不全

Ⅱ型呼吸不全は、肺胞低換気によって、O2の取り込みとCO2の排出が不十分になっている状態です。肺胞低換気の機序は、換気量(肺胞換気量)の減少と呼吸運動の低下に分けられます。

動脈血液ガス分析ではPaO2が60Torr以下(低酸素血症)、PaCO2が45Torrを超える上昇(高二酸化炭素血症)を示します。急性Ⅱ型呼吸不全ではpHは低下し、アシドーシスとなります。(慢性呼吸不全ではpH低下は腎臓の代償機能で緩衝されます。)また、肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)は基本は正常です。しかし、COPDの場合、肺胞構造の破壊により肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)が開大します。他にも肺胞構造の破壊による肺胞死腔の増加や換気血流比不均等、拡散障害も生じます。

慢性Ⅱ型呼吸不全の注意点として、CO2が蓄積していくとCO2ナルコーシスの状態となります。症状としては、傾眠・昏睡状態、自発呼吸の減弱などを認めます。そのため、慢性Ⅱ型呼吸不全の方に対して高濃度O2投与は注意が必要です。

 

以上の内容を下記に表でまとめました。

正常 呼吸不全
Ⅰ型呼吸不全 Ⅱ型呼吸不全
PaO2(Torr) 80〜100 ≦60(低酸素血症)
PaCO2(Torr) 35〜45 ≦45 >45(高二酸化血症)
概要
  • O2の取り込み、CO2の取り込みがともに正常
  • O2の取り込みが不足する(低酸素血症)
  • 拡散能が高いCO2の排出は正常
  • PaO2↓、PaCO2
  • A-aDO2
  • O2の取り込みが低下する(低酸素血症)
  • CO2の排出も低下し、CO2が蓄積する(高二酸化血症)
  • PaO2↓、PaCO2
  • A-aDO2→ or ↑

 

まとめ

  • 呼吸は肺で行われる外呼吸、細胞で行われる内呼吸があります。
  • 呼吸不全はPaO2が60Torr以下(低酸素血症)の状態を言います。
  • 低酸素血症の病態生理学的機序は主に、換気血流比不均等、拡散障害、シャント(右左シャント)、肺胞低換気の4つがある。
  • 呼吸不全はPaCO2≦45TorrのⅠ型呼吸不全、PaCO2>45TorrのⅡ型呼吸不全に分類されます。
  • 慢性Ⅱ型呼吸は高濃度O2投与による、CO2ナルコーシスに注意する。

 

  • 参考文献

1.3学会合同呼吸療法認定士認定委員会.第26回3学会合同呼吸療法認定士「認定講習会テキスト」.令和3年8月1日.pp.12,41,129

2.岡庭 豊.病気が見える vol.4 呼吸器第2版.平成29年10月16日.pp88-91

3.小林 剛,田中桂子.呼吸不全の病態生理.pp.18

 

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